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◆エイジアン・ブルー 浮島丸サコン◆
解説

戦後50年
 被害の記憶はながく残るのに、自らの加害については忘れやすいといわれる。「エイジアン・ブルー」は「浮島丸事件」を題材に日本の植民地支配や侵略戦争の事実を直視し強制連行・強制労働をはじめて描いた異色作だが、これほど戦後50年にふさわしい日本映画はほかにないであろう。しかも、声高に責任を追及したり、教訓めいた作品ではない。ある時代を生きた、あるいは犠牲になったひとり一人の人生や家族、未来への思いをじっくりと描くことで、現代を生きる私たちに生の重さを静かに語りかけてくれる映画である。
堀川監督の意欲作
 この厳しいテーマに挑んだのが1916年生まれの堀川弘通監督。戦後日本映画の黄金期に、東宝で数々の話題作をおくりだし、フリーになってからも誠実な作品をつくりつづけている。今回は、難しい題材と困難な製作条件の下で、自らの世代の思いを強くこめながら、50年という時間の流れと、青森・京都・舞鶴そしてアジアをむすぶ空間の広がりをもったスケールの大きな映画を完成させた。二ヶ月をこえるオール・ロケを、独立プロのスタッフの力を結集し、東京と京都の映画人の協力で成功させた。
過去と現代を結んで
 1945年と現代という50年の時の流れを、確かな視点を据えて結ぶ物語は、日本を代表する脚本家・山内久と若手の今井邦博の共同作業から生まれた。当時の状況を各地に人々から精力的に取材し、リアリティあふれる作品が出来上がった。50年間の物語を結ぶ詩人・高沢伯雲は、俳人・加藤楸邨に師事する今井邦博がつくりあげたキャラクターである。
印象深い映像と音楽
 「エイジアン・ブルー」にはいくつもの印象にのこるシーンがある。林淳一郎の撮影による詩情あふれる映像が、事実の重みをいっそう胸に迫るものにしている。冬の下北などをモノクロームで表現された50年前の場面とカラーの現代の情景がうまく組み合わされている。
  さらに音楽が心に残る。これが映画初出演となる歌手・新井英一の「清河への道」の熱情。大林の奏でるテグムの哀調。解放の喜びとともにわきあがる民俗音楽。全編をながれる音楽は、湯淺隆・吉田剛士が構成している。
無名塾の出演協力・多彩で充実した演技人
 キャストは、今年創立20周年を迎えた仲代達矢率いる「無名塾」が全面的な出演協力を行い、藤本喜久子・益岡徹・山辺有紀、隆大介・岡本舞・高川裕也と主な役どころをおさえている。さらに、佐藤慶・井川比佐志をはじめベテラン演技人たちが作品にいっそう厚みを与えている。過去のシーンでは、ベンガル・石橋蓮司・絵沢萌子・及川ヒロオら、現代では、高橋惠子・梅津栄・下條正巳・原知佐子らが個性あふれる演技をみせている。
  また、漫才のニュー・パワー海砂利水魚、京都の狂言界から茂山千之丞・茂山あきら(友情出演)、人気アイドル新島弥生ら、ユニークなキャスティングも話題である。
  下北・京都・舞鶴のロケで撮影された群集シーンなどでは、のべ四千人におよぶ市民のボランティア・エキストラが協力した。
市民と映画人の協力から生まれた作品=運動としての映画づくり
 「映画100年」のこの年、観客が自ら企画運動をおこし、製作支援募金運動が全国的に広がった映画作りは、この「エイジアン・ブルー」以外にみあたらない。
  この映画を企画した「平安建都1200年映画をつくる会」は、京都に世界の注目が集まる1994年という年に、多くの市民が参加してこれからの歴史を展望する映画をつくろうと、1991年11月に京都市で発足した。京都は日本映画発祥の地であり、日本映画を世界に通用する芸術に高めた街であった。そんな市民運動を映画作りの専門家たちがささえた。市民とプロの映画人たちの協力が、ここに「エイジアン・ブルー」として実を結んだのである。「猫は生きている」「対馬丸」「銀河鉄道の夜」などを製作した京都に拠点をおく伊藤正昭プロデューサーは当初から製作を担当していた。
  戦後、京都府丹後地方で船乗りをしていた伊藤正昭は、舞鶴湾にマストを突き出したまま沈んでいた浮島丸を見た。シベリアからの引き揚げ港・舞鶴で、帰還する日本人の喜びの姿とは対照的に、祖国に帰る夢を絶たれた人々の象徴・・・浮島丸の姿が、今も目に焼きついていると言う。
  戦後50年を見通した素材を求めていた「映画をつくる会」が、1993年にテーマを「浮島丸事件」に決めると、運動は全国へとひろがった。舞鶴では早い時期から犠牲者の慰霊祭を持続的に取り組み、1978年には殉難の碑を建てた市民たちが映画づくりに賛同し、青森県下北でも事件の真実と強制労働の実態を掘り起こしてきた皆さんが「支援の会」をつくった。それぞれの土地で行われたロケにも幅広い協力体制をつくりあげてくれた。
  全国の支援を受けて製作にあたったのは、当時伊藤正昭が代表をつとめていた潟Vネマ・ワーク。「若者たち」「サンダカン八番娼婦館・望郷」「潤の街」「月光の夏」など独立プロを代表する作品をおくりだしてきた且d事(旧社名、俳優座映画放送)が製作協力を行っている。
エイジアン・ブルー=アジアの海を越えて
 映画作りの企画から五年。下北半島から京都・舞鶴でのオールロケ、そして中国映画合作公社・長春映画撮影所の協力をえて中国東北部・長春市近郊の朝鮮族の村でのロケを敢行し、映画「エイジアン・ブルー 浮島丸サコン」は完成した。
  戦後50年、映画100年にふさわしいこの作品を、全国100万人に観てもらおうと上映運動もスタートする。そして日本の市民が作った映画が、韓国をはじめアジアの人々の前で上映される日が来ることを心から願っている。
1995年8月15日発行「エイジアン・ブルー 浮島丸サコン」映画パンフレットより


1995年作品/カラー(一部白黒)/111分/VHS・DVD
劇映画
個人用    ¥11,000(税込) *VHS/DVD同価格
*VHSのみハングル字幕スーパー入・英語字幕スーパー入もございます。
学校・図書館用は(有)淡路映像プローモーションにお問合せ下さい


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